本文
SAGA2024国スポ・全障スポ 相撲豆知識(26)
大相撲に限らず歌舞伎、日本舞踊等の世界では、「付け人(つけびと)」という立場の人がいます。この「付け人」とは、一般的に徒弟(とてい)制度(※)やその流れをくむ育成システムが存在する組織の中にあって、序列・位・格等により上位の者の側についてその雑務などを務める者のことをいいます。
※徒弟制度 江戸時代に構築された制度で、職人など手工作業者の中で、親方、職人、弟子の関係を秩序づける階層的な身分制度。
大相撲では、幕下以下の力士が関取(十両以上の力士)の「付け人」となります。関取の身の回りの世話をしながら、相撲界のしきたりや礼儀作法を学ぶための貴重な修行の場となります。
「付け人」には、それに対する報酬はありません。お金をもらうためにするものではなく、どちらかというと、関取の近くで相撲道を学ぶ場でもあります。関取や親方の身の回りの世話をすることで、関取としての立ち振る舞い、付け人への接し方、人としての考え方等、関取になるために必要なことなどを直(じか)に学ぶことができることから、決してお金では買えない価値があるように思えます。もちろん、どんな関取につくかによっては、力士人生が大きく変わる場合も出てきます。
「付け人」には厳しい現実もあります。関取であった力士が幕下に陥落した場合、これまでは自分に「付け人」がいたにもかかわらず、逆に「付け人」にならなければならない場合も出てきます。また、兄弟子といえども、自分より弟弟子の出世が早くその「付け人」になる場合や、自分の「付け人」だった人の「付け人」にならなければならないということもでてきます。心は複雑かもしれませんが、そういった感情を割り切って、「付け人」に徹するのが相撲界の掟といえるでしょう。
「付け人」の仕事としては、主に関取の身の回りの世話になります。日常生活では、風呂で関取の背中を流したり、着物の洗濯等になりますが、本場所になれば、関取の締め込み(しめこみ)(※)や化粧廻しの入った明け荷(あけに)(※)を運んだり、座布団の準備と大忙しです。横綱の付け人となればさらに大変で、横綱の土俵入りに使う綱の準備等も必要になります。
※締め込み 関取衆が本場所で締める繻子(しゅす)織り廻しのこと。
※明け荷 締め込みや化粧廻しなど力士が様々な道具を入れるための葛籠(つづら)。
「付け人」といえども朝早くから稽古をしなくてはいけません。稽古でどんなに疲れていても、夜遅くまで「付け人」としても働くので、自分の自由時間はほとんど持てません。本当に修行の場という言葉があてはまるのではないかと思います。
関取の位によって、「付け人」の人数も変わってきます。十両であれば2~3人、幕内では3~4人、横綱になれば8人から10人の「付け人」が付きます。ただ、つらいことばかりではなく、関取からご飯をご馳走になるというのはよくあることで、関取としては、「付け人」を可愛がり、「付け人」は、関取としての心構え等を学べるウインウインの関係になればベストといえるのではないでしょうか。